<Anifaアニファ 2008年12月号>
オーストラリア発
探知犬を訓練する現代版ドリトル先生
文:ハイランド真理子

3年前に、成田空港に日本で初めての検疫探知犬がやってきた。キャンディとクレオ。その2匹と最初のハンドラーを育成したのが、オーストラリアのスティーブ・オースティン氏である。では探知犬とはいったいどんな犬でスティーブ氏はどんなドレーニングをしているのでしょうか。
さまざまなのもを見つけ出す
彼は、探知犬のトレーナーとしては、世界でトップの技術を誇る。ヨーロッパ探知犬チャンピオンシップの審査員として、毎年ポーランドに招かれ、アメリカの探知犬会議にも何度もスピーカーとして招聘されている。文字通りの世界トップの探知犬トレーナーである。探知と言っても、様々な探知犬がある。成田で働いている犬たちは、肉類や卵などを探知して、日本に疫病が入ってくるのを阻止する犬たちだ。また、同じ検疫探知犬といっても、その国によって、探知対象が異なっていて、例えば、オーストラリアでは、肉類だけでなく、植物類も探知して、オーストラリアに外来種が入るのを防いでいる。探知物が麻薬の場合には、麻薬探知犬となり、探知物が 爆発物であれば爆発探知犬になる。他に、死んだ人間を探知する死体探知犬もいるし、瓦礫などに埋まった生きた人間を見つけ出し助ける救助犬もいる。
環境保護にも一役
最近、スティーブは、オーストラリアのタスマニア州政府から、狐の糞を探し出す探知犬を育成するように依頼された。タスマニアは、オーストラリア本土から離れた北海道ぐらいの大きさがある自然の豊かな島で、そのために、本土から病原が入ると、その自然が壊滅状態になる場合もある。オーストラリアでは害獣になっている狐は、本来タスマニアには入っていなかったが、最近になってどうしたものか入り込んできてしまい、タスマニアの固有種を食い荒らしている。狐の糞があるのは、そこに狐の巣があるというサイン。スティーブの訓練した狐の糞探知犬が見つけ出した糞の近辺にある狐の巣を、環境保護の係官たちが破壊して、狐退治をするのである。
広がる活躍の場所
タスマニアと言えば、トリフ犬も、スティーブ・オースティンは訓練した。もともとヨーロッパにしか生息しなかったトリフを最近ではオーストラリアで生産するようになったのだが、このトリフを、スティーブの訓練した犬たちが探知している。金と同じぐらい価値のあるトリフ。現在ではタスマニアだけでなく、オーストラリア全土で生産が始まった。日本にも輸出しているのだとか。
探知犬の中には、白蟻の探知犬もいる。白蟻は、知らないうちに家の土台を食い尽くす恐ろしい虫だが、スティーブ・オースティンは、この虫を探知する犬を訓練して、白蟻の業者が作業犬として、一緒に仕事をしている。
「人間は犬の能力の10%しか見出していません」とスティーブは言いますが、最近、海賊版CDを見つけ出す探知犬たちが、アジアの空港で仕事をしており、探知犬たちの活躍の場所は増えるばかり。ところで、探知いぬたちは、海賊版かどうかを見つけ出すのではなく、大量にCDが輸入された場合に、そのCDに含まれている化学物質を嗅ぎだすのである。海賊版かどうかは、人間が調べるので、念のため。新しい探知犬の分野と言えば、癌のにおいをかぎだす犬や、てんかんの発作を知らせる犬たちについても現在研究がなされていると聞いた。スティーブ・オースティンの言うように、犬の能力は、我々人間が思っているより、ずっと大きいのかも知れない。
自発的なトレーニング法
スティーブ・オースティンの訓練の方法はエラーレス・トレーニングという。それは、犬たちがエラーレス、つまり間違いを起こさずに、トレーニングできる方法だ。つまり、簡単にいえば、"SIT" 座れという命令を出さずに、スティーブの方法は、犬が座ってから"SIT"をさせ、"REWARD"、つまり"褒美"を出すもの。たまたま座ったら、褒美をもらった犬は「あれ、どうしたんだろう。どうして、褒美がもらえたんだろう」と考えるようになるのだという。つまり、人が命令をするのではなく、犬が自分で考えて、自発的に座るようにするのだ。これだと無理やり何かをさせられるのではないから、犬たちも喜んで座るようになる。その昔、犬だけでなく、動物に対する訓練は、動物たちが"、人間の命令するある行為をしなければ、罰を与える"という、恐怖による訓練であった。このトレーニング方法だと、動物たちは、いつも恐れおののいている。何かをするのは、しなければ罰を与えられるからである。ところが、スティーブ・オースティンは、動物たちが喜んで何かをする方法でトレーニングをしている。動物たちは、喜んで、アクションする。
ニワトリのオーケストラ
先日、日本のテレビ番組の取材があった。取材では、実は、ピアノを弾く鶏を撮影する予定だったのだが、取材前に、ちょっとアクシデント。スティーブ・オースティンの家に飼っているピアノを弾く鶏を、ディンゴが食べてしまったのだ。さあ、大変。慌てるコーディネーター(つまり、私)に、スティーブは"NO PROBLEM"心配ないといった。撮影当日、彼は、鶏小屋から、新人?の鶏を出してきて、あっという間に、鈴を鳴らす芸を仕込んでしまった。その方法は、前述したエラーレス・トレーニング。コッコッコーと鳴いている鶏の目の前に鈴をぶら下げる。すると、鶏は、くちばしを、偶然に鈴にぶつけてしまう。と、餌が出る。餌は、当然、犬の訓練でいうと"REWARD"になってしまう。コッコッコー。鶏は、また鈴にくちばしをぶつける。とまた餌が出る。それを3回ぐらい繰り返すと、鶏は、自分から鈴をつつく。鈴がなる。餌が出る。という具合で、およそ3分で、鶏は、自分から上手に鈴を鳴らすようになってしまった。レポーターは、「鶏は、三歩歩いたら忘れるっていいますが、これは一体どうしたことでしょう」と目を丸くして驚いていた。今、スティーブ・オースティンは、この鶏のオーケストラを訓練している。ピアノとドラムと鈴。出来上がったら世界で初めてのコケコッコー・オーケストラになるかも知れない。
現代版ドリトル先生
スティーブ・オースティンのことを、オーストラリアでは現代版ドリトル先生と呼んでいる。動物ならほぼ何でもトレーニングしてしまうからである。「バットマンには、新車を2台も買ってもらったんだ」とスティーブ。バットマンとは、スティーブのところにいる現在13歳になる猫だ。今は、現役を引退しているが、彼は、かつて、オーストラリアのテレビのスターとしてならした。「これは、世界で一羽しかいない珍しい鳥」と見せてくれたのは、オーストラリアのオウムの一種でガラーという鳥とコレーラという鳥のミックス鳥。スティーブのところには人が何人も入れるような大きな鳥舎があるが、ここで生まれたのがこのガレーラ(?)である。このガレーラのハーヴィーちゃんも、スティーブはトレーニングしていて、ハーヴィーちゃんは、スティーブの胸ポケットからお金をとって飛んでいったり、おかねと一緒に、戻ってきたりするようになった。飼われている鳥たちが、幸せに暮らせるためには、飼い主との間でインターアクション(相互活動)があった方がいいと、スティーブは言う。スティーブのところには、フェレットもいる。スティーブは、探知犬だけでなく、ガンドッグと言われるハンティングドッグを持っていて、その犬たちは、スティーブが訓練したフェレットと一緒にトレーニングをする。
人間も犬の同じ
スティーブ・オースティンは、動物のトレーナーであるが、彼は、人間のトレーナーでもある。人間が動物のトレーニングをするのであるから、当然のことかもしれないのだが、彼は、何人もの優秀なハンドラー&トレーナーを訓練してきた。ポジティブであること、忍耐強くあること、観察する力があることなど、優れたハンドラー&トレーナーになる条件はいくつかあるが、それにしても、もっとも、大切なのは、犬たちがいい探知犬になるのと同じ条件、つまり、INTENSITY やるぞという意気込みなのだと、現代版、ドリトル先生のスティーブ・オースティンは語っている。
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