愛犬の友・オーストラリアニュース
(by ハイランド真理子)

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<愛犬の友 2006年6月号>

オーストラリアの最新犬事情
動物の理学療法士とは



メルボルンに住むジョン・メイさんはジャックラッセルテリヤのミッシーを飼っている。4エーカーの大きな敷地だから、ミッシーは、普段、ウサギを追ったりして元気に駆け回っていた。ところが、その元気なミッシーが脊髄の病気で四肢が麻痺してしまったのだ。 大手術をした後で、獣医からリハビリを紹介された。「人間の理学療法は聞いたことがありますが、犬の理学療法など知りませんでしたから、最初はちょっと懐疑的だったのです」とメイさんは語る。 ミッシーは、オーストラリアで初めてのリハビリセンターを開業したミシェル・マンクさんの患者。今、ミッシーは2ヶ月間リハビリに通い、メイさんの大きな庭を元気で走り回っているという。

もうひとつの話は、脊椎から椎間板が外れた7歳のダックスフンドの話。手術をして3日目にミシェルさんが治療を始めた。まだそのダックスが獣医院に在院中のこと。その後2週間しても、足が全く動かない。後ろ足も麻痺したまま。おまけに失禁も出ている。オーナーは、回復をあきらめ安楽死させようとしていた。そこで、ミシェルさんは、彼女を引き取った。1日に1回の水泳療法と、4回の理学療法。水泳療法には、トレッドミル(水中歩行器)と、プールを使った。ダックスが、トイレに行くのに4週間かかった。それから、3週間で立てるようになった。そして6週間目には、ダックス、多少ぐらぐらしてはいたがそろそろと歩き始めた。3ヶ月目には1キロをあるくようになった。それから、彼女はぐんぐん回復して、他の犬たちと一緒に走ることもできるようになっている。

こんな話は、ミシェルさんの周りにはたくさんある。だからあきらめないで欲しいのだととミシェルさんは語る。彼女は、動物の理学療法士になる前は、人間の理学療法士をしていた。オーストラリアで動物の理学療法士になるためには、まず大学で理学療法を学び、人間の理学療法士になる必要がある。その後、修士課程で動物理学療法士になる。したがって、世界で最も厳しいといわれるのも無理はない。オーストラリアでもまだその数は少なく、実際、修士課程を取った動物理学療法士は、オーストラリアでも20人しかいない。また、その半分以上は馬の理学療法士である。オーストラリアにある、動物理学療法グループ(アニマル・フィジオセラピー・グループ)のメンバーは、およそ70人。この人々は、人間の理学療法士で、動物の理学療法に関心がある人々。しかし、修士の資格をとっていない人々がほとんどだという。オーストラリアでは、人間の理学療法士は大変、一般化しており、医者が治すことのできない、腰痛や膝痛などの持病の治療、手術後のリハビリ、疼痛緩和などさまざまな分野で活躍している。だから、この理学療法を動物に応用しても全く不思議はない。ミシェルさんも、優秀な人間の理学療法として病院に勤めていた。「初めて動物に理学療法を施療したときには、かまれるのではないかしらととても心配でした」とミシェルさんは笑って語る。 最近、動物の理学療法士になりたいという人々が増えているが、彼女の考えでは、人間の理学療法士が動物の理学療法士になるよりは、動物を扱える人が、理学療法を勉強したほうが、早く知識やスキルを修得できるだろういう。

ミシェルさんのリハビリセンターは、ドッグインモーション、つまり動いている犬たちという名前がつけられていて、メルボルン郊外のダンデノン丘陵の近くにある。市内中心部からは車でおよそ1時間。メルボルンの反対側に住んでいる人たちや田舎から何時間もかけてやってくる患者たちもいる。このドッグインモーションセンターには、コンサルタントルームと治療室、水泳のプールとアンダーウオータートレッドミル(水面下歩行器)があり、センターの周りにはエキササイズ用のガーデンもある。理想的な施設と環境だ。同じものを市内に作れば、患者が今の何倍にも増えることがわかってはいるが、予算の関係で現在のところに留まっているとミシェルさんはいう。最近、日本にも水を使って治療をしているところもあると聞くが、理学療法は、単なる水泳療法ではない。レーザー治療や、様々なテクニックを使ったマッサージ、ストレッチなどに、トレッドミルとスイミングを組み合わせた包括的な療法である。治療が進んで、効果が現れれば、あとは水泳だけに来る患者たちもいるが、運動のための単なる水泳とは異なることを強調したい。したがって、ミシェルのセンターでは、獣医の照会がない限り、患者は引き受けないことにしている。獣医師とのコミュニケーションは治療をより効果的にするためにとりわけ重要である。患者である犬たちが正しい診断を受けているかどうかを確かめるとともに、理学療法をしてもいいのかどうかを確認し、獣医師と治癒のための共通の目標を決定しなければならない。だから、ミシェルさんのセンターでは、照会を受けた獣医に、患者たちのレポート定期的に行っている。

ミシェルさんは、大変研究熱心で、しかも新しいことを学び実行することを恐れない。これまでもっとも高かったハードルはと質問すると、「順調にやってきた人間の理学療法の仕事をやめて、動物の理学療法をしたこと」だという。彼女は、アメリカやヨーロッパにも行って様々な理学療法と呼ばれる施設などを見た結果、自分で水中歩行器を開発することにした。アメリカ製やドイツ製のものもあるが、それらは小型で人間が中に入ることができない。例えば、麻痺のひどい犬の場合、ミシェルさんは、歩行器に入って、手を使って足を動かしてやる。そのうち、犬たちも少しずつ足を動かし始める。アメリカの理学療法について聞くと、アメリカで理学療法という資格がオーストラリアのように国家レベルではなく、誰でもが理学療法士と名乗ることができるのだと聞いた。オーストラリアのように資格の厳しい国は、英国だけであるという。 センターのプールは26度の温度に設定してある。熱すぎず快適に水泳できる温度だ。実際、太りすぎの犬たちが増えて、水泳だけでもしたいという要望が多い。しかし、初回は必ず診察を受けなくてはならない。また、怪我をしていたり、手術後の犬たちは、前述したように獣医の照会状がなければ引き受けない。彼女にとって、理学療法は、単なる金儲けの手段ではなく、問題を抱えた犬たちの治療の手段だからだ。

将来のことを聞くと、ミシェルさんは、「私の夢は、できるだけ多くの獣医に、理学療法があり、手術後の彼らの患者のリハビリに貢献することを伝えることです。また、そのために、できるだけ多くの理学療法ができる人材も養成していきたいと思っています。」と目を輝かせて語る。時にはコンサルタントだけで1日14時間にもなることがあるという彼女だが、その合間に、動物理学療法グループの事務局長を勤め、セミナーや論文の執筆にも精を出している。セミナーは、獣医対象のものや、獣医看護士へのものもある。人材の養成に関して、彼女は、動物看護士の知識と技術があれば、理学療法を、およそ1年で修得できると信じている。だから、彼女はそのためのカリキュラム作りも始めた。 パイオニア、ミシェル・マンクはとどまるところを知らない。