<愛犬の友 ワールドドッグレポート>
〜2008年4月号〜
人・犬を語る・・・
スティーブ・オースティン
動物との関わりは?
「最初に犬をトレーニングしたのは、12歳の頃でした」と、スティーブ・オースティンは語る。スティーブ・オースティンとは、オーストラリアのテレビやラジオ、雑誌などでもお馴染みのドッグトレーナーで、更に、オーストラリアの連邦政府がナショナルトレーナーとして認定した唯一の探知犬トレーナー、また、全ヨーロッパ探知犬競技会の審査員。最近は、アメリカのカリフォルニアとアーカンソー州の爆薬・麻薬探知犬とハンドラーのサーティファイアー、つまり犬とハンドラーたちを認定することができる世界でも珍しい認定人となった。言葉は悪いが、タダ者ではない。その彼が、「僕は母の46歳のときの子供で、父は幼いときに死んでいます。兄弟たちも既に成長していたので、動物たちが、寂しかった僕の子供心を、いつも慰めてくれたのです」と、動物との最初の関わりを話してくれた。たくさんの動物とのかかわりの中で、後に、彼を世界的なドッグトレーナーにしたのは、学校に行く彼の後を着いて来た野良犬だった。スティーブは、その犬にスーティと名前をつけて、こよなく可愛がるだけでなく、その犬に様々な芸を教えていった。中でも大きなビールグラスに、ビールを注いで頭の上においてバランスをとる芸は、彼の住んでいた町でかなりの評判になったのだという。「その頃は、毎週木曜日が給料日。木曜日の夜、給料を貰って気前の良くなった人たちが集まるパブに行って、スーティの芸を見せ、かなりの小遣いを稼ぎました」と、スティーブ。動物に関心があったものの、彼は、最初、園芸家になった。そして、スティーブが、本格的にドッグトレーナーになろうと思ったきっかけは、オーストラリアで、最も格式のあるとされるシドニーイースターショーの、オーストラリアン・オビィーディアンス・チャンピオンシップで優勝してから、様々な人たちから、トレーニングについての相談がくるようになってからのこと。 色々な人たちから犬の悩みや、トレーニングのこつなどを聞かれ始めて、もしかして自分の知識が役に立つかもしれないと、パートでドッグトレーナーとなり、ついにはプロになって、今日の世界的なドッグトレーナー、スティーブ・オースティンとなる。
優れた探知犬を作るには
スティーブ・オースティンは、オールラウンド・トレーナーである。ペットの仕付けから、テレビやCMに出る芸能犬(?)から、介助犬から、ガードドッグ、ガンドッグ、そして探知犬と幅広いトレーニングをする。しかしながら、世界的な名声を得ている彼の最も得意とする分野は、探知犬の分野だ。探知犬と言っても、探知物の違いで、様々な探知犬が存在している。例えば、スティーブが、現在トレーニングしている探知犬は、空港や郵便物に禁止品が隠されていないかどうかを探知する検疫探知犬、麻薬を探知する麻薬探知犬、生きた人間、そして死体を捜索する探知犬、狩りの獲物を探し出すガンドッグ、トリフを探知するトリフ探知犬。現在、ビジネスとして大変繁盛している白蟻を見つけ出す白蟻探知犬。また、狐の糞の探知犬。これは、先ごろ、オーストラリアのタスマニア州政府が、今、タスマニアの生態系に壊滅的な打撃を与えている狐の棲息地を見つけ処分をするために、スティーブ・オースティンに依頼してきたものだ。
爆薬でも、肉でも、糞でも、犬にとって、臭いは臭いなのだと、スティーブ・オースティンは考えている。ただ、警察犬は警察犬、救助犬は救助犬、また検疫探知犬は検疫探知犬で、働く現場の環境が異なるので、そこのところに独自性が出てくる。しかし、基本的には臭いを嗅いでリスポンスさせる行為は同じことだ。リスポンスは、パッシブ(受動的)とアクティブ(能動的)なものとの二つ、つまり、臭いを探知したら座らせる、時にはフリーズ(動かないこと)させる、そして、臭いを見つけたらそれを足などで掻き出すという仕事である。スティーブは「仕事場がどんな場所であっても、そこが彼らにとって幸せな場所でなければ、犬たちは働きません。例えば、それが空港であれば、空港で働くことが、彼らの人生で至上の場所でなければならないのです」と、モチベーションの重要性を説く。そして、そのためには、様々な環境づくりをしなければならない。例えば空港で働く検疫探知犬の例。「空港が彼らにとって最も楽しい場所であるためには、他の場所を、あまり楽しい場所にしてしまわないことです。つまり、他の場所は、寝て、リラックするする場所。例えば、犬舎で、犬たちの世話をする人が、犬たちと遊んだり、ご褒美をやったりすれば、犬たちにとっては、空港で働くことよりも、犬舎にいた方が楽しいということになります」家にペットを飼っている人たちは、「まあ、なんて冷たいんでしょう」と眉を吊り上げるかも知れないが、スティーブは「彼らはプロの職人ですから」と、その批判にはのらない。だから、検疫探知犬たちは、ハンドラーと空港に行くと、途端に目の色が変わる。身体中に喜びがみなぎり、尻尾を振る回数が多くなる。肉を見つけ出して、ハンドラーに褒められる時、それは、彼らの至上の喜びとなる。働く犬たちは、須くそのようなトレーニングがされている。このような例がある。空港で働く犬が、なかなか今までのような結果を出さなくなってしまった。肉でないものには無視するようにトレーニングをされているのに、ケーキなどに座るようになってしまった。WHY?(どうして)
スティーブは、犬舎での餌が多すぎていないか、つまり、お腹が一杯で、仕事をしようとするハングリー精神がなくなったのではないか、ケーキを見つけた時に、誤って褒美を上げてしまったのではないか、空港で褒美を見つける機会が少なくなり、犬たちが、何でもかんでも座ってしまうようになったのではないか、他にも、考えられる事情を全て聞きだして、再トレーニングに入っていく。スティーブは、ドッグトレーニングは、「ブラック&ホワイト(黒白がつけられない)」ではないと語る。1つの方法がある状況では正しく、他の状況では間違っていることもある。ドッグトレーニングは出来るだけ科学的に検証したり実施したりしなければならないが、その一方で、それだけでは、解決できない様々な問題も伴うものだと、スティーブは言う。「犬は物ではなく、生き物である」ということを、ドッグトレーナーは常に考えていなければならないということなのだろう。
探知犬に向く犬種、向かない犬種はるのか?
探知犬に向いている犬種がいるのだろうか?スティーブ・オースティンは、「これはあくまでも僕の考えです」と断りながら、「ありません。夫々、程度の差はありますが、どの犬種でも、探知犬になることはできます」と言った。 実際、昨年、彼が審査委員の一人を勤めた全ヨーロッパ探知犬チャンピオンシップには、チェコ共和国からプードルの麻薬探知犬も参加したらしい。プードルの麻薬犬は、やはり珍しい。しかし、これも、仕事ができれば、プードルでもいいのだ。ラブラドールだから探知犬がいいとか、シェパードだから警察犬がいいとか、1つの犬種にこだわる必要はないと、スティーブは考えている。既存の犬種にこだわりがちな日本社会への好アドバイスかも知れない。
良い探知犬とは
では、ブリードに関わらず、いい探知犬になる条件とは?"DRIVE(ドライブ)"つまり、「やる気」です。"INENSITY
(インテンシティ)"、これは、日本語になかなかできない言葉なのだが、激しさ・緊張感とでもいうのだろうか。スティーブは、こんな例を語ってくれた。「これは、探知犬だけではなく、仕事をする犬たち、全般に必要な条件です。例えば、優れた警察犬などは、犯人を追走していけば、犯人によって自分たちが危害を加えられる危険性を知っていても、襲い掛かる犯人に向かっていきます。これは、まさに、ドライブとインテンシティがなければ出来ない仕事です。スティーブ・は、このドライブとインテンシティのある犬たちに、十段階のプログラムでトレーニングを行う。一段階から二段階目に移る時は、一段階目の目的事項を、間違いなく十回できるようになってから。間違えば、もう一度最初からやり直す。こうして、少しずつ確実に前に進んでいく。「小さな進歩は、大きな失敗よりずっといい」というのが彼の信条。いい探知犬チームとは、キチンとトレーニングをされた犬といいハンドラーで組むチームのことを言う。当たり前のことだが。
良いハンドラーの条件とは
では、いいハンドラーとはどのようなハンドラーのことを言うのだろうか。スティーブ・オースティンは、ドッグトレーナーであるだけでなく、犬をハンドリングするハンドラートレーニングのプロでもある。トレーナーとしての技術があっても、このハンドラートレーニングの技術を持っている人たちは少ない。スティーブは、犬にも考えることを教えるのだが、ハンドラーにも考えることを教える。ハンドラーたちに何か教えるときにも「これは、自分の考えだから」とやはり断る。「自分だったらこうするが、あなたたちはどう思うのか」と必ず聞く。ハンドラーたちに「褒めすぎはいけないけれど、褒めなければやる気はでない」「WHEN(いつ)?
では、どのような時に?」ハンドラーたちは、仕事の中で常にそれを考えなければならない。 「THNIK(考える)。答えは、自分が考えるのだ」と、スティーブ。 日本の教育の中には、考えることは教える教育は少ないから、ハンドラーたちはたちまち戸惑ってしまう。スティーブ・オースティンが教えるのは、解決法ではなく、解決の鍵である。
今後に向けて
スティーブ・オースティンが、最近、ディンゴを飼い始めた。ディンゴは、オーストラリアにアジアから、5000年前にやってきた。インドの狼の流れを汲むという犬と狼の中間の肉食獣。しかし、純血種はほぼ絶滅しかかっており、オーストラリアでは、今、純血のディンゴの保存運動が広がっている。このディンゴを、スティーブは、BLUEと呼んで可愛がっている。このディンゴとスティーブの画像は、現在、Uチューブで、世界的な大ヒット。スティーブは、自分が会長を勤めるペット産業協会の会議にも、ステージショーにもBLUEを一緒に連れて行く。ディンゴは犬ではないから、そのトレーニングは、非常に難しい。しかし、何事にもチャンレジするスティーブらしい。「出来れば、象や虎などの猛獣もトレーニングしてみたい」と語っている。最後にもう一度、ドッグトレーニングに触れて「我々は、未だ、犬たちの10%ぐらいの能力しか引き出していないと思う。だから、その能力をもっと引き出してやって、人間たちとまた新たな共同作業を考え出してみたい」54歳、スティーブ・オースティンのトレーナーとしての道はNON
STOPである。 |